運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

うずべんを探すアライさんbot

アライさん(筆者)の専門はうずべんの分類学なのだ!分類学の大きな仕事のひとつに、「未記載種を新種として記載する」っていうのがあるのだ。要するに、誰も知らないうずべんを見つけたから形とか特徴を記録して新しく名前を付けるのだ!っていうやつなのだ。

うずべんは海や池の水を探すといっぱいいるのだ。そもそもあまり研究が進んでいない生物というのもあって、新種っぽいやつは探してるとぼちぼち出てくるのだ。
ということでアライさんは隙あらばサンプルからうずべんを探しているのだ。




こないだ隣の研究室の知り合いがお土産にサンプルを持ってきてくれたので、このサンプルから新しいうずべんを探すのだ!

彼が持ってきてくれたのは海底の砂なのだ。うずべんには水中に浮いてる浮遊性(プランクトン性)の物だけでなく、砂とかにへばりついてる底生性(ベントス性)の物もいるのだ。今回は後者を狙うのだ。
ちなみにサンプルの容器には水深30mって書いてあるのだ。曰く、「命を削って採ってきた」らしいのだ。なんかちょっと重いのだ…。

まず、扱いやすい適当な容器に砂を移すのだ。これに培養液を足すのだ。生のサンプルだとうずべんの数が少なかったりするので、培養液を足して、増えるのを待ってから探すのだ。

さらに、これに二酸化ゲルマニウムを少し足すのだ。これは珪藻を選択的に駆除するための操作なのだ。珪藻の殻はケイ酸を含んでいるのだけど、周りにケイ素の同族元素であるゲルマニウムがあると、これを間違って取り込んで死ぬのだ[1]。
珪藻に恨みはないのだ。でもぶっちゃけ増えると超邪魔なのでここで全滅してもらうのだ。ざまあ見ろなのだ。

このあと数日待つのだ。この操作をやったのが一昨日なので、本当はもうちょっと待った方がいいのだ。でもアライさんは気になってしょうがなかったので、今日の夕方に顕微鏡で覗いてしまったのだ。

案の定数は多くなかったけど、うずべんはちらほらいたのだ。
ここから欲しいうずべんを単離するのだ。

うずべんの大きさは数十μmなのだ。これは普通のピペットやピンセットではとても扱えないのだ。
そこで、まずガラス製のパスツールピペットを用意するのだ。これをアルコールランプで熱して柔らかくして、引き伸ばすのだ。そうやって口径数十μmの極細ピペットを作るのだ。ガラス細工職人なのだ!

このピペットでうずべんを回収するのだ。専用の小さい容器に培養液を入れておいて、これにうずべんを1細胞ずつ入れるのだ。この時、間違って他の細胞が混ざってしまうと後で面倒臭いので、慎重に単離するのだ。

今回のサンプルからは、Prorocentrum属の1種と、よく分かんない謎のうずべん(Gymnodiniumっぽい?)を1種見つけたのだ。正直、アライさんの力量だと1細胞を見ただけでは属まで落とし込むのが精一杯なのだ。
ということで、単離したうずべんを培養して増やして、あとでじっくり観察するのだ。いずれ新種記載することになっても、細胞はいっぱいいた方が(株として成立していた方が)観察するのに都合がいいのだ。

ただし、中には培養ができないうずべんもいるのだ。こういう場合でも、一応細胞が1つさえあれば、記載に最低限必要な情報を揃えることは理論上可能なのだ[2]。ただしめちゃくちゃ難しいのだ。多分ごく限られた一部のフレンズにしかできないのだ。アライさんはやりたくないのだ…。

今回単離したうずべんも、培養できるやつなのか実はまだ分からないのだ。しばらく待って様子を見るのだ。




アライさんはこういう風にして新しいうずべんを探しているのだ!
もちろん方法は他にもあるのだ。例えば、砂をザルに入れて、上に氷を乗せて、氷から逃げてザルから下にすり抜けてきたうずべんを回収する、なんて面白い方法もあるのだ[3]。1回やったことあるけど、わりと出てくるのだ。




アライさんはサンプルを顕微鏡で見ている時が1番楽しいのだ!でも未記載のうずべんを単離したら、その分論文を書かなきゃいけないので、もちろんそっちも頑張るのだ。




参考
[1]西澤一俊、千原光雄 (1979) 『藻類研究法』共立出版
[2]Takano Y. and Hiriguchi T. (2006) Acquiring scanning electron microscopical, light microscopical and multiple gene sequence data from a single dinoflagellate cell. Journal of Phycology 42: 252-256.
[3]Hoppenrath M. (2000) Taxonomische und ökologische Untersuchungen von Flagellaten mariner Sande. PhD thesis, University of Hamburg, 1-311.