運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

見えないものを見ようとして

単細胞生物を扱う研究に顕微鏡は欠かせない。目に見えないからである。光学顕微鏡、電子顕微鏡ともに使いこなせなければならない。

顕微鏡を使って撮った写真の質は、もちろん顕微鏡の性能によっても変わるが、撮影する人の技量もまた強く影響する。
例えば光学顕微鏡では、ピントを合わせる以外にも、コンデンサや絞りの調節(しかも顕微鏡の絞りは視野絞りと開口絞りの2つがあって別々に調整する)、さらに微分干渉顕微鏡というのを使う場合は、コントラストを上手いこといじる機能があるのでそれもやることになる。これだけの要素が絡むと、同じ物体を撮るにしてもかなり差が出てくる。

論文に掲載されている顕微鏡画像のクオリティもピンからキリまである。どうやって撮ったんだと思うような綺麗な画像もあれば、さすがにこれはちょっと引くわみたいなやつもある。
なんと言っても画像データは論文の中でも最も目立つ要素であり、そのクオリティで論文の印象は結構決まる。逆に言えば、論文の印象、さらには著者の印象をより良くするために、画像データにはとことんこだわる必要がある。




最近筆者は、うずべんが餌を食べる所を観察している。対象のうずべんが餌を食べる時、どうやらとある構造が関与しているようなので、その決定的な証拠となる画像を得ようとしているのだ。
とはいえ、やつらはとんでもなく小さい。うずべん本体が10μmくらいしかなく、そいつが持ってる構造はさらにその10分の1くらいのサイズ感と思ってもらえれば良い。細胞が動かない状態なら、そういった細胞内の構造も光学顕微鏡でもギリギリ見えるのだが、餌を食べている最中は動き回っているのでまじで見えない。
小さいものを観察するなら電子顕微鏡の出番だが、実は電顕は捕食行動などの動的なものを観察するのには向かない。観察のために細胞を固定、すなわち殺さないといけないからである。観察できるのは、殺されたその瞬間の様子だけだ。となると、餌を食べている瞬間を狙って固定して観察すれば理論上行けるのだが、今のところあまり上手くは行っていない。

光顕にしろ電顕にしろ無理ゲーのように思われてくる。しかし筆者はどうしても目的の物が見たかった。
とりあえず光顕の方が準備に手間がかからないし試行回数を稼げるので、ひたすら餌を食わせては光顕で覗くのを繰り返していた。




そしたら今日、見えてしまった。

特別なことは特にやらず、餌を食べるところを動画で撮影しまくって、動画解析ソフトでコマ送りにしてたら見えた。
要するにごり押しである。ブログタイトルを運だけ研究生活としているだけはある。

見えた瞬間は\パンッ/ヨッシャアアアアアアとなっていたが、客観的に見るとそんなにインパクトのある件ではなかったりする。これに加えて他にデータをたくさん集めて、軽めの論文1本書けるかなあといった感じだ。
ただ、見たかったものが見えた瞬間というのは、やはり研究の中でも指折りの楽しさがある。逆にこういう(どうでもいい)ものを好き勝手にやらせてもらえるのは院生の特権かなとも思う。