運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

進路の模索

生まれて初めて企業説明会なるものに参加してみた。

参加したのはアカリク主催の「研究開発職を知るセミナー ~製薬・化学・食品編~」というものである。
筆者の研究は製薬も化学も食品もほとんど関係が無いし、そもそも筆者は企業への就職ではなくアカデミアでの研究を志していたので、正直そんなに意欲はなかった。しかし、アカデミアの比較対象としての企業研究職をよく知らないまま、何となくアカデミア行きたい〜と主張するのは合理的でないので、その辺の知識を付けるために今回参加に踏み切った訳である。特に、漠然としか理解していなかった「アカデミアと企業の違い」ははっきりさせておきたかった。また、これによって志望が変わる可能性も十分考えられた。

ちなみに、参加申し込みをしたのは一昨日で、この時点でキャンセル待ちだった。その後めちゃくちゃキャンセルが出たのか知らないが、普通に参加できた。




企業説明会と言っても、このご時世なのでオンライン上でのものである。Zoomを介して、企業の担当者さんの話をみんなで聞く。地方勢からすると移動の手間がないので楽だし、何より気楽なのでずっとこの形式にして頂きたい。
この手のイベントでお決まりの「私服で構いません」が何を意味するか問題だが、見たところ参加者の7割が私服で3割はスーツだった。筆者は私服で参加した。
企業は製薬、化学業界からが多く、学生側もそちらの分野の人が多いようだった。藻類関係どころか分類学をやっている人すら見当たらず、多分筆者は浮いていた。

肝心の内容だが、企業のアカデミアの違いについて得られた情報を筆者なりにまとめると以下のようになる。
アカデミアでの研究は論文や学会での発表が業績となる。一方、企業での研究は製品として世に出され買われ使われることが目標である。従って、企業では人々のニーズに合った結果を、より素早く出せるような研究が求められる。要は研究の目的がそもそも異なり、アカデミアの研究が「知識の蓄積」を目指すものだとしたら、企業のそれは「世間への貢献」を目指すものである。

このため、企業側から学生に求めるものとして、世の中に貢献したいとか、人に喜ばれたいとか、イノベーションを起こしたいとか、そういう意思がよく挙げられることになる。

筆者はたぶん、こういった意思が希薄である。

本当に誤解を恐れずに言えば、筆者は気持ちよくなるために研究をしている。
具体的にどういった時に気持ちよくなるかというと、うずべんの細胞小器官がTEMで綺麗に撮れた時、分子系統解析で樹形がすごい形になった時、培養実験で思惑通りの成長曲線ができあがった時、論文が受理された時、学会で面白いと言われた時…である。

では、世の中に貢献することによって筆者は気持ちよくならないのかと言えば、それが分からない。なぜなら、筆者の研究が直接的に世の中に貢献したり、人を喜ばせたり、イノベーションを起こしたりしたことがないからだ。筆者の研究がゴリゴリの基礎研究であるが故に、である。
筆者の研究は、「面白いね」と言われたことはあっても、「ありがとう」と言われたことがないのだ。

筆者が企業の研究にあまり興味を持てていないのは、自分の研究で「ありがとう」と言われた時の気持ちよさを知らないから、というだけなのかもしれない。

これがいいか悪いかという話ではないが、とにかくこういうことを考えた。




今のところ、筆者の適正を客観的に考慮すると、やはりアカデミアへ行きたい。ただ、それは今のところの話である。自分の中で何か変革が起こればまた違ってくるかもしれない、と今日の説明会を経て考えが少し変わった。