マカロニの正体
半年ほど前から、表面からマカロニのような物体が生えたうずべんの観察をして来た。結果、このうずべんが未記載種である証拠は十分得られたのだが、ではその肝心のマカロニが一体何なのかという所は分かっていなかった。
年末頃に、マカロニをTEM(透過形電子顕微鏡)で観察することに成功した。
TEMはサンプルの内部構造を観察するのに適した電子顕微鏡である。サンプルを厚さ70nm程度の超薄切片にして、切片に電子線を当て、透過した電子線を影絵の要領で観察する。結果的にサンプルの断面を見ることができる。
当然マカロニをTEMで観察するにはそれを薄切りにしなくてはならないが、狙って切るにはあまりにも小さいので、細胞の塊を適当に切ってそこからマカロニを探した。数は多くないがいくつか画像を得ることができた。
観察の結果、マカロニは鎧板の上、つまり細胞構造の最も外側から生えていることが分かった。言い換えると、マカロニは細胞内部から突き出しているものでは無かった。
この結果から、マカロニはうずべんが生やしたものではなくて、実はどこか別の所からやってきて偶然付いていただけなのでは?という可能性が生まれた。特に、放置していると数が増えることから、バクテリアなどの生命体である可能性がある。
これを検証すべく、うずべんの培養液にガラス板を沈め、しばらく放置してからSEM(走査型電子顕微鏡)観察を行った。SEMはサンプルの輪郭や表面構造を観察するのに適した電子顕微鏡で、マカロニがマカロニとして見える。マカロニが外来生のものであれば、ガラス板の上にも落ちていたり生えていたりするはずだ。
そして筆者は、ガラス板の上にマカロニがしっかり生えている現場を見つけてしまった。
以上の結果から、マカロニはうずべん由来の構造ではなく、外来生のバクテリアなどがコンタミしたものである、という説が支持された。
マカロニの正体が一体何なのか、真相は闇の中である。上ではバクテリアと書いたが、あんな形のバクテリアは果たして存在するのだろうか?
とりあえず今は、培養液からうずべんを単離し直して、マカロニフリーな株を作れないか試している。これまで撮った写真にもマカロニが写っていて非常に悪目立ちするので、余裕があれば撮り直したい。
このうずべんとマカロニを関連付けて議論することは今後無くなると思う。論文にも載らないだろう。これは少し残念だ。
とはいえ、このうずべんが未記載種であろうという事実は変わらない。せっかくここまで観察したし、記載論文は必ず書く。
今は念の為マカロニの画像は載せないでいるが、この仕事が片付いたらぜひお見せしたい。