運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

春の使者

筆者の住む札幌でも桜が咲き始めた。
タンポポも咲いているし、ツクシも顔を出している。少しずつ緑色が増えてきた。

隣の建物へ実験機器を借りに向かいながら、同行する後輩と「いやー春っすねー」みたいな会話をした。
春は良いものだ。




ところで、ヒメマルカツオブシムシという昆虫をご存知だろうか。
体長数ミリ程度の丸っこい甲虫で、背中は茶色と白のまだら模様である。

この虫は、毎年春になると筆者の家の中に発生する。いや発生するというか、おそらく冬の間幼虫の状態で筆者宅のどこかで過ごし、暖かくなって羽化してきたのが目に入るのだ。
ヒメマルカツオブシムシは衣類などを食べる害虫とされている。こいつが筆者宅に現れたということは、筆者宅内の何かが食われているということになる。

数日前に、今シーズン初のヒメマルカツオブシムシを発見した。そして今日2匹目を見つけた。
外に投げるか潰して殺すかはその時の気分次第である。




ヒメマルカツオブシムシは「春の使者」である。中でも特にパワーを持つ「春の使者」である。
例えば桜やタンポポやツクシは、普段の生活のバックグラウンドに彩りを与えてくれるのは間違いないが、それはあくまでバックグラウンドである。研究室へ向かう途中に、あー桜咲いたなーと思いながら通り過ぎて、それまでだ。
一方のヒメマルカツオブシムシは、まず筆者宅の中に現れるのが問題である。生活の中心に混入する異物であるがゆえに、強制的に意識を向けさせられる。プライベートに侵入された気になるし、冬の間もどこかに潜んでぬくぬく過ごしていたという事実を突きつけられ、侮辱された気分になる。心を掻き乱される。Disgustingである。
さらに、現れたヒメマルカツオブシムシを追い出すなり殺すなりするために、こちらから動かなければならない。心どころか身体でさえも動かす力を、この春の使者は持っている。このような強制力は桜やタンポポやツクシにはない。

本州だと「花粉」という強力な春の使者が幅を利かせているが、札幌にはスギ花粉が存在しないので、筆者には関係の無い話である。

筆者は虫は苦手ではない、というかむしろ好きである。うずべんを始める前は趣味として昆虫採集をやっていた。
しかしヒメマルカツオブシムシを良く思ったことはない。強いて言うなら語感だけは良い。ヒメマルカツオブシムシ




ヒメマルカツオブシムシは筆者に春を知らせに来てくれる。いずれ第3のヒメマルカツオブシムシが筆者宅に現れた時、きっと筆者はクソデカため息を吐きながら、その春を処理しにかかるだろう。筆者の戦いは続く。