運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

【限定復活回】先輩の遺志

筆者の論文が公開されたので、けじめとして記事を残そうと思う。

公開された論文はこちら。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1434461022000232

随分前からたまに記事に書いていた、「先に卒業した先輩から引き継いだ某生物の研究」とはこれのことである。Platyproteum noduliferaeと名付けられた。
「某生物」と不自然な書き方をしていたのは、系統的位置があまりにも意味不明で、例えば「〇〇の仲間」「某うずべん」みたいな表現ができなかったからである。
詳細に説明すると長くなるが、まずうずべんと同じアルベオラータ生物群に属する系統に「アピコンプレクサ類(以下アピコン)」と呼ばれるものが存在する。アピコンは鞭毛と葉緑体を持たない寄生性生物からなり、有名所だとマラリア原虫などがいる。そのアピコンの姉妹群にあたる位置に「chrompodellid」と呼ばれるマイナー生物群が存在し、こいつらには鞭毛や葉緑体を持つ種が含まれる。そして今回のP. noduliferaeは、アピコン+chrompodellidのさらに姉妹群に来るらしいく、厳密にはアピコンにもchrompodellidにも属さないことになる。「こいつは〇〇の1種」のような表現すら難しい、本当によく分からない、表題通りenigmaticな生物なのである。

ここでさらに面白いのが、P. noduliferaeが痕跡的な鞭毛を持っていたことである。細胞に対して長さが非常に短く、動いてはいるのだが何かの役に立っているかは怪しいレベルである。
また、TEM観察をしたところ鞭毛装置が見つかったので、この立体構造の解析もした。筆者が担当したのが主にこれである。結果として、全くやる気の感じられないクソザコ鞭毛装置が出てきたので、これの解析をしている間は結構わくわくした。
なお、このPlatyproteum属だが、実は2006年に記載されており、P. noduliferaeが2種目となる。しかし2006年の報告では鞭毛と鞭毛装置は画像に映っているにも関わらず見逃されており、筆者たちの研究によって初めて報告した形になる。

以上のように、原始的なアルベオラータであるPlatyproteumの新種記載、及び本属における鞭毛と鞭毛装置の初の報告がこの論文の目玉である。




論文公開までめちゃくちゃ大変だったが、材料と結果が面白すぎて帳消しになっていた感がある。
このプロジェクトに最初に携わった先輩もこれで報われたことだろう。筆者も報われた。めでたしめでたしだ。