運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

葉緑体遺伝子が増やせない

うずべんの葉緑体ゲノムを解析したい話の(多分)最終回である。




うずべんの葉緑体遺伝子はトランスクリプトームのような網羅的解析で読むことができないので、遺伝子を1つずつPCRで増やして読む必要がある。しかし、うずべんの葉緑体遺伝子は何十個かあり、このゴリ押し戦法では余りにも道のりが長い。
というのが前回までのあらすじだ。

この問題を解決するための鍵となるのが、ミニサークルの非コード領域に存在する「コア領域」である。

2つ前の記事で紹介した通り、うずべんの葉緑体遺伝子は基本的に1つずつ、ミニサークルと呼ばれる小さい輪っかに乗っている。このミニサークルの配列のうちには、葉緑体遺伝子をコードする領域の他に、何の遺伝情報も無い「非コード領域」も含まれる。
一般的に、非コード領域の塩基配列は、突然変異によって変化しても生命維持に影響しないことから、修正機構も働かないし、淘汰もされない。よって、その塩基配列は系統的に近いもの同士であってもバラバラになりがち(=保存性が低い)である。
ところが、うずべんのミニサークルの非コード領域のうち、一部分になぜか非常に保存性が高い領域が存在する。これが「コア領域」と呼ばれている領域である。
このコア領域の塩基配列は、種間では多少の変異が見られるものの、同種内であれば完璧に保存されているらしい。一種類のうずべんは複数種のミニサークルを持っているが、コア領域だけはその全てのミニサークルで共通しているということだ。

解析したいうずべんについて、このコア領域の塩基配列さえわかれば、その配列からプライマーを設計し、ミニサークル遺伝子を全てまとめて増やすことができる。
これさえできれば、あとはクローニングなり網羅的解析手法なりを用いて読めばいい。




では、コア領域を特定するにはどうすればいいか。

まず、何かしらの葉緑体遺伝子の配列を頑張って読む。
次に、その遺伝子の配列の端っこに結合する、逆向きのプライマーを設計する。ミニサークルは環状なので、これを使ってPCRをすると、葉緑体遺伝子の外側の配列、すなわちミニサークルの非コード領域がすべて増幅される。先に読んだ葉緑体遺伝子の配列と、後に読んだ非コード領域の配列を合わせて、そのミニサークルの塩基配列がコンプリートされる。

この作業を最低2つのミニサークルに対して行う。
そして、その2つのミニサークルの配列を照合し、コア領域っぽい場所を探すのである。

この手法を使った先行研究は実は存在する。葉緑体遺伝子を何も乗せていないミニサークルはこの手法によって発見されている(Hiller et al. 2001)。




ということで、筆者の最初のミッションは「葉緑体遺伝子を最低2つ特定する」となる。




なのだが、これができなくて詰んでいる。

手始めに、葉緑体遺伝子の中でも保存性が高く、よくこの手の解析に使われているpsbA遺伝子を増やそうとしたのだが、これが増えない。
ちなみにポジティブコントロールとして別のうずべんで同じ実験をした所、普通に成功した。つまり原因は筆者のミスではなくうずべん側にあり、具体的にはプライマーが合っていないか、そもそもpsbAが存在しないかである。

今回の研究対象のうずべんは葉緑体機能を失いつつあり、何らかの遺伝子に多少の変異があることは予想していた。しかし、psbAすら増えないとなると非常に困る。

次に23S rDNA配列(葉緑体リボソーム遺伝子の1つ)にターゲットを変更した。
PCRは成功した。…ように見えたのだが、増えた遺伝子を読んでみたらその正体はコンタミしたバクテリアのものであった。筆者は激怒した。




今はpsbAと23S以外の葉緑体遺伝子を増やすためにプライマーを探している所だ。それにしても雲行きが怪しすぎる。




解決策やアドバイスがあればぜひ教えてください。