運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

鞭毛装置とは

随分前から筆者が戦っている鞭毛装置について、そもそもそれが一体何なのか解説していなかった気がする。今回は鞭毛装置とは何で、なぜその解析が求められるのかを書いていく。久しぶりに真面目な記事になりそうである。




まず、ほとんどの真核細胞は「鞭毛」を持っている。文字通り鞭のように波打つ毛で、移動のための推進力を得る目的などで使われる。
動物の場合、精細胞に立派な鞭毛が一本ある。
なお、細菌や古細菌にも鞭毛と呼ばれるものはあるのだが、構造が異なるので、ここでは真核生物のもののみを扱う。

この鞭毛の根っこの部分をまとめて「鞭毛装置」と呼ぶ。細胞表層に位置している。
鞭毛装置は、主に鞭毛の基部である「基底小体」と、そこから伸びる「鞭毛根」から成る。さらにこれらを接続する細かな構造も含まれる。

うずべんやその近縁な生物群は鞭毛を2本持ち、細胞の後ろ側にある方を鞭毛1、前側にある方を鞭毛2とすることになっている。これは、細胞分裂時に鞭毛を複製する際、複製元となった鞭毛が後ろ側に来ることに由来する。
さらに、鞭毛1の左(向かって右側)にある鞭毛根を鞭毛根1とし、そこから反時計回りに鞭毛根2、3、4と割り振る。ただし、鞭毛根の数と組み合わせは種によって異なる。




この鞭毛装置がなぜ役に立つのかというと、その理由は主に次の2つの理由に集約される。
まず、ほとんどの真核生物が有していること。
そして、パーツによって変わりやすさ(保存性)が様々であること。
つまり、比較がしやすいのである。同属の近縁種同士の比較も、極めて遠縁な、それこそうずべんとヒトとの比較も可能である。実際、系統分類学的な議論の際、鞭毛装置構造の比較はしばしば登場する。今筆者が鞭毛装置を解析しているのも、系統分類学的な比較が目的である。

一方、鞭毛装置の比較解析には致命的な欠点も存在する。難易度が高すぎるのである。
鞭毛装置は細胞中に一つしかない。それも、核などの大きくて目立つ細胞小器官と異なり、非常に小さく目立たない。牛ですら希少部位には高値が付くというのに、単細胞生物で同じことをしようとしたら大変なことになる。
さらに、あまりにも細かい構造なため透過形電子顕微鏡(TEM)観察が必須である。それもただのTEM観察ではだめで、立体構造を完全に再構築するには、鞭毛装置全体を漏れなく連続切片にして、1枚ずつ観察して写真を撮っていく必要がある。
TEM観察についてはこちら https://under-the-floor.hatenablog.com/entry/2019/06/05/210228





ということで、鞭毛装置は重要ではあるのだが観察がとにかく大変なので、みんな敬遠してしまっているのが現実である。