運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

うずべんのAV

うずべんの紹介をもう少ししようと思う。




うずべんを特徴づけるものとして「アンフィエスマ小胞」というのがある。英語だとAmphiesmal Vesicles 略してAVとなる。
アンフィエスマ小胞は、うずべんの細胞表層に並ぶ薄い袋状の構造である。細胞膜のすぐ真下を小胞が裏打ちするように、びっしりと敷き詰められる感じになっている。

中には何が入っているのかというと、これは種によって異なり、「鎧板」が入っている場合と、何も入っていない場合の主に2パターンである。
鎧板を持つうずべんを有殻、持たないうずべんを無殻の種として区別して扱っている。

鎧板は読んで字のごとく、鎧のように硬い板である。セルロースでできている。これを細胞表層に並べることで、防御力を上げているらしい。
鎧板を持つうずべんはゴツい上に、形が尖ったものも多い。Ceratocorys属は投げつけたら超痛そうだし、Ceratium属はそのまま刺突系の武器として使えそうである。Alexandrium属は形こそ尖っていないものの、たくさんの細胞が一列に連なって鎖状になるため、悪魔城ドラキュラのヴァンパイアキラー(鎖みたいな鞭みたいなあれ)を彷彿とさせる見た目になる。

無殻のうずべんのアンフィエスマ小胞には本当に何も入っていない。じゃあ何のためにあるんだと疑問に思ってしまう。一応、物質の輸送や貯蔵がされてるんじゃないかみたいな推測はあるのだが、うずべんでは実験で証明されてはいないようだ[1]。無殻のうずべんは見た目ぶよぶよで、武器としては使えなさそうである。クッションとかの方が向いていそうだ。




遺伝子配列に基づく系統解析により、鎧板は単一起源なんじゃないかと主張されている[2, 3]。つまり、アンフィエスマ小胞は鎧板を含まない空っぽな状態が元々の姿で、ある単一のうずべんが鎧板を開発して子孫に広まったかもしれない、ということである。今でこそ鎧板を持つ種は多いが、これの獲得はむしろ結構画期的なのかもしれない。知らんけど。

もっと言うと、うずべんに近縁とされるアピコンプレクサ類や繊毛虫類(こいつらとうずべんをまとめてアルベオラータと呼ぶ[4])にもアンフィエスマ小胞と同様な構造(アルベオール)が見られる。鎧板はもちろん入っていない。これら3つの生物は控えめに言って全く似ていないが、なぜかこの謎の袋だけはみんな持っている。




気付いたら大真面目な内容になってしまった。ただアンフィエスマ小胞と鎧板はうずべんについて話すには避けて通れない内容なのでしょうがない。




参考
[1]Kalinina V. et al. (2018) Trophic strategies in dinoflagellates: how nutrients pass through the amphiesma. Protistology 12: 3-1.
[2]Orr R.J.S. et al. (2012) When naked became armored: an eight-gene phylogeny reveals monophyletic origin of theca in dinoflagellates. Plos One 7: 1-15.
[3]Janouskovec J. et al. (2017) Major transitions in dinoflagellate evolution unveiled by phylotranscriptomics. PNAS 114: E171-E180.
[4]Adl S.M. et al. (2019) Revisions to the classification, nomenclature, and diversity of eukaryote. J Eukaryot Microbiol 66: 4-119.