運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

ポケモンという学問

ポケットモンスターと言えば誰もが知っているあの一大コンテンツである。
本家のRPGゲームから始まり、数多の派生作品が生み出され、アニメも長いこと続いている。最近ではポケモンGOの流行により、さらに幅広い層に受け入れられたと言える。
初代発売から20年以上経った今、ポケモンの数も増えに増え、現時点で807種類が存在する。最初は150匹くらいだったのにーという声をいろんな方向から耳にする。

そんなポケモンだが、ガチ勢の間では非常に奥の深い学問体系が成り立っていることをご存知だろうか。

ポケモンガチ勢」の定義は様々だが、ここでは本家におけるポケモン対戦をガチでやる人、を指すことにする。
本家ポケモンでは、インターネットに繋げることで全世界のポケモントレーナーと通信対戦ができる。レーティングシステムも導入されており、対戦に勝てばレートが上がり、負ければ下がる。
ポケモン対戦ガチ勢の皆さんは、このレートを上げるために日々研究と実践を繰り返しているのだ。

かく言う筆者もレーティングバトルをよくやる。なお最高レートは1919である。平均が1500で、2000から上が猛者と言われているので、うーんもうちょいと言った所だ。




対戦で勝つためには、強いポケモンを使い、強いパーティを組み、強い戦略を練る必要がある。この辺りの考察から「学問」が発生する。




まず、強いポケモンを使いたい、もしくは好きなポケモンの強い使い方を知りたい…この時参考にするのが「育成論」と呼ばれるものである。
これは、このポケモンはこう育てたらこんなことが出来て強いぞ!という考察を、文章と数値データにまとめたものだ。
同じ種類のポケモンでも、育て方、技、持ち物の組み合わせ…所謂「型」により全く異なった戦い方をすることがある。例えばリザードンであれば、普通に炎技をぶっぱなしてくるアタッカーだけでなく、耐久が高くなるように育て、回復技を持たせ、相手を状態異常にしてねちねち削っていく型もある。
このため、一種類のポケモンにつき育成論が複数書かれることも多い。

そしてこういった育成論をまとめているサイトがネット上にいくつか存在する。中でも最メジャーなものは「ポケモン徹底攻略(以下 ポケ徹)」の育成論投稿板である(https://yakkun.com/sm/theory/)。
こちらには数多くのポケモンガチ勢が考案した大量の育成論が掲載されている。科学で言うところのジャーナルに当たる。

育成論の形式は概ね以下のようになる。
まずポケモンの紹介、背景、採用理由。今のポケモン対戦ガチ環境はこんな感じになっていて、そんな中でこのポケモンはこんな活躍が期待できるので考察してみた、みたいな話が書かれる。論文で言うIntroductionである。
育て方、技構成、持ち物。Materials and Methodsである。育成論は広義の方法論Methodologyに含まれるので、ここがある意味一番重要である。
ダメージ計算。この育て方のポケモンがどんなポケモンにどれほどのダメージを与え、逆にどんなポケモンからどれほどのダメージを受けるのかを記述する。Resultsである。
運用法、相性の良い味方、使用感など。Discussionである。

ということで、ちゃんとした育成論は科学論文に近い形式を取ることになる。とても理に適った形式ということだ。

さて、ポケ徹に投稿された育成論には、不特定多数の読者からの5段階評価、及びコメントを受け付けるシステムがある。これにより、育成論の善し悪しが客観的に評価される。
そう、査読システムである。
さすがにポケ徹管理人によるリジェクトなんて事は無いが、クソ育成論には容赦なく☆1が付けられるので、しっかりとふるいにかけられる。
また、コメント欄では議論が非常に白熱する場合がある。最初は評価の低い育成論でも、議論の末内容が改訂され、最終的に評価を上げていくこともある。




ここまで説明した「育成論」はポケモン単体の考察であり、言ってしまえば基礎研究寄りの内容である。
しかし、ポケモン対戦は6匹のポケモンでパーティ(構築)を組む必要があり、この辺りにはまた別の考察が必要である。より実践的な、応用研究のようなものだ。

構築の組み方と戦略をまとめたものを「構築記事」と呼ぶ。
構築記事は各ポケモントレーナーが個人運営するブログなどにまとめられている。また、構築記事を検索するための「ぽけっとふぁんくしょん!」(https://nouthuca.com)というサイトも存在する。

さすがにそれぞれが個人ブログでの掲載なので、査読のようなシステムは無い。しかし、普通はその構築が到達したレートが記事に載っているので、そこから構築の完成度とパワーを推し量ることができる。レート2000達成したから構築記事書きます!みたいなのが多い気がする。筆者も書いてみたい。
記事の書き方も人それぞれだが、この構築に至った経緯、ポケモン単体に関する考察、運用法、戦略、きつい相手の誤魔化し方などが載っていることが多い。




このように、強さを求めるガチ勢達により高度に体系化された知識と情報が、ポケモンの世界には広がっている。これは紛うことなき「学問」である。
そしてもちろん、これらを丸パクリしただけで勝てるほどポケモンは甘くない。先行する資料や情報を元に、自分なりの戦い方を理詰めし編み出していく、これ即ち「研究」である。

今日もポケモンガチ勢達は、ポケモンについて延々と思考を巡らし、大量のポケモンを孵化させ育成し、レーティングバトルという魔境で切磋琢磨を繰り返す。彼らの戦いに終わりは無い…。




まあ、どれだけやっても最終的にポケモン運ゲーなのでクソだ。