運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

論文紹介シリーズ その1

これから定期的に読んだ論文の内容を軽く紹介してみようと思う。
できれば週1回ぐらいでやりたい。
企画倒れになるかもしれないが、やると宣言したら引けなくなる気がするのと、公開される以上適当に読むことが許されなくなるので、自分を追い込めるかなと思う次第である。




さて、記念すべき第1回目の論文はこちらである。

Dorrel et al. 2019. Principles of plastid reductive evolution illuminated by nonphotosynthetic chrysophytes. PNAS 116 (14) 6914-6923.
URL: https://www.pnas.org/content/116/14/6914

タイトルのChrysophyteというのは、日本語だと「黄金色藻」という。日本語でも聞き慣れないかもしれない。なんか金の匂いがする名前だが、特に珍しくもなく、その辺の池にいる。

黄金色藻の中には光合成能力を失ったものがいる。この現象がいかにして起こったのかを解明しようというのが目的だ。
筆者がうずべんでやろうとしている研究の黄金色藻バージョンである。

論文の内容はひたすら盛り沢山なのだが、大まかに分けると次の3つである。
(1)黄金色藻全体の分子系統解析
(2)葉緑体ゲノム、及び核コードの葉緑体関連遺伝子の縮退度の比較、解析
(3)葉緑体関連タンパク質の局在解析

(…これ説明できるのか?)

(1)まず、黄金色藻全体の系統関係を明らかにして、光合成能力の衰退が何回起こったのかを検証した。
結果、非光合成性の種は黄金色藻の系統樹の中にバラバラに現れた。これにより、光合成能力の衰退は複数回起こったことがわかった。正確な回数までは結論できなさそうだが、最低でも13回は起こったらしい。

(2)次に、非光合成性の黄金色藻に葉緑体関連遺伝子がどれくらい残っているかを解析した。

まず「葉緑体ゲノム」だが、実は葉緑体細胞核とは別に遺伝子(ゲノム)を持っている。これは葉緑体がシアノバクテリアという生物に起源を持つことに由来する。
光合成性黄金色藻の葉緑体ゲノムを解析した結果、光合成性の種と比べて大きく縮小しているものの、いくつかの遺伝子を残していることがわかった。
そして、その残っている遺伝子の組み合わせが、アピコンプレクサ類のそれとほぼ一致することもわかった。
アピコンプレクサ類はマラリア原虫などを含む生物群で、実はうずべんの親戚みたいな生き物である。過去に紅藻との二次共生により葉緑体を獲得したが、現在はその痕跡が残るのみで、光合成はしていない。
さて、実は黄金色藻も紅藻類との二次共生で葉緑体を獲得したグループである。つまり、非光合成性黄金色藻とアピコンプレクサ類が共通して保持している少数の葉緑体遺伝子は、紅藻由来の葉緑体を維持するために最低限必要な要素なのではないか、という推測が立てられる。

また、細胞核が持つ遺伝子にも、葉緑体の機能に関連するものがある。これがどれくらい残っているかを解析し、複数の非光合成性黄金色藻で比較したところ、少数の例外を除き、似たような組み合わせの遺伝子が維持されていることが分かった。
なお、(1)で解析したとおり、比較対象の黄金色藻は異なる系統で別々に葉緑体を縮小させたものである。

起源が異なる生物が似たような特徴を持つように進化して行くことを「収束進化」という。葉緑体の消失進化において、2パターンの収束進化が認められたことになる。

(3)最後に、細胞核から発現した葉緑体関連タンパク質がどこで機能しているのかを調べた。
というのも、(2)の後半の解析の結果、葉緑体局在シグナル(葉緑体に輸送しろって指示を出すための配列)が消えている遺伝子が見られたので、実際にその遺伝子から発現したタンパク質が細胞内のどこに輸送されているのか検証してみようということになったのである。
解析方法は、例のタンパク質にGFPタンパク(緑色蛍光タンパク)をくっつけて、別の細胞(ここではとある珪藻)で発現させて、緑色に光っている場所を探すというものだ。
結果、例のタンパク質はやはり葉緑体には存在せず、ミトコンドリアに局在していることがわかった。
また、このタンパク質の起源をさらに詳しく調べ、先行研究と照らし合わせると、どうも昔は葉緑体局在シグナルとミトコンドリア局在シグナルの両方を持っていたらしいことがわかった。つまり、この黄金色藻では、葉緑体縮退の結果、このタンパク質から葉緑体局在シグナルだけが消失していったのではないか、と考えられる。




…というのがこの論文のおおまかな内容だ。本当はこれの3倍くらいは内容がある。削ってこれである。大変。

間違い等ありましたらご指摘ください。