運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

論文公開

先日投稿し受理されていた論文がオンライン上で公開された。

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/jpy.12981




内容は、渦鞭毛藻Paragymnodinium asymmetricumおよびP. inermeの新種記載である。

Paragymnodinium属のうずべんは、これまでP. shiwhaenseとP. stigmaticumの2種のみが知られていた。このうちP. shiwhaenseがタイプ種で、P. stigmaticumは2年前に筆者が記載したものである。

本属のうずべんは、葉緑体を持っていて光合成をしていると同時に、捕食も行うことで栄養を獲得している。つまり独立栄養と従属栄養の両方を行っていて、このような栄養獲得様式は混合栄養と呼ばれる。
また、餌を捕獲するための器官と考えられる「ネマトシスト」という複雑な射出装置、つまり武器を持っていることも本属の特徴である。

さて、今回新種として記載した2種のうずべんは、形態や遺伝子配列からParagymnodinium属であることは間違いないと言える。ところが、既知種と違ってこいつらは餌を全く食べない。餌になりそうな色んなものを与えてみたのだが、餌を食べる素振りすら見せないのである。どうやら光合成だけで十分な栄養を獲得して増殖しているらしい。
「餌を食べることができない」ことを示そうとすると、いわゆる悪魔の証明になってしまい問題が残る。しかし、既知種のP. shiwhaenseは「餌を食べないと死ぬ」ことが実験によって示されており(ちなみにP. stigmaticumについても多分同様で、関連する研究は近いうちに論文にしたい)、今回の「餌を食べなくても死なない」うずべんとは明確に区別される。

さらに、捕食に使われるはずのネマトシストだが、特にP. inermeで数が少なく、あったとしても構造に異常が見られた。本来の機能はもはや残っていないものと思われる。ちなみにネマトシストの構造異常などという現象は、少なくともうずべんでは前例がない。
このような捕食のための器官であるネマトシストの退化は、先述した捕食能力の破棄との関連性が示唆される。




その他細かい発見が色々あり、全部載せたら17ページにも及ぶ大作になってしまった。観察している分には非常に楽しいうずべんだった。




という事で、この研究内容に関する仕事はひとまず形になった。めでたしめでたしだ。
これでようやく次の論文に集中できるようになるので、ちゃちゃっと終わらせたい。