運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

やる気スイッチ

うずべんの増えやすさについてまとめてみようと思う。一部昨日の繰り返しになるかもしれない。

本題に入る前に前提条件をいくつか挙げる。
まず、「やる気」を「増えやすさ」と定義させてもらう。理由は特にない。筆者がこの表現が好きなだけである。
筆者が普段うずべんを培養する時の条件だが、温度は15℃、20℃、25℃のいずれか、明暗周期は明期16時間、暗期8時間である。培養液は主にダイゴIMK培地を使用している。
あとは、これから書く内容が実験データに基づいている訳では無い点、筆者が海洋底生性のうずべんをほぼピンポイントに扱っているためかなりバイアスがかかっている点に注意されたい。

なお、やる気は種によってほぼ決まっているようである。培養しているうずべんのやる気が上下するようなら、おそらく培養条件が見えないところで変動している。昨日紹介した死にかけのうずべんも、多分そうである。




☆何もしなくてもやる気のあるうずべん

葉緑体を持っていて、単離したら勝手に増えてくれる。楽。
葉緑体を持っているうずべんはこれの場合があるので、積極的に増やしに行くべき。
もちろんやる気の度合いは種によって異なり、すぐ増えるやつもいればゆっくり増えるやつもいる。


葉緑体はあるがやる気のないうずべん

いかにも光合成で増えそうな見た目をしているのに増えないやつが結構いる。
例としてはAmphidnium herdmaniiなど。平べったくてケツみたいな形をしたうずべんである。一度大量に捕まえたことがあるが、全く増やせなかった。条件が整えばやる気を出すかもしれないが、詳しくはわからん。


☆やる気があると見せかけてすぐ失ううずべん

ちょっと増えて力尽きて死んでいく。上げて落とすタイプ。イラッとする。
珪藻から葉緑体をぶんどって使っているDurinskia属などにこのタイプが見られる。


☆餌をあげるとやる気を出すうずべん

葉緑体を持たないか、縮小しているタイプ。光合成の代わりに捕食で栄養を確保している。
種ごとに餌の好みがあるらしいので、食べそうなものを勘で選んで与える。筆者の指導教官曰く、白玉餅粉をあげたら増えたうずべんが昔いたとか…。
Cryptoperidiniopsis属などはこのタイプ。こいつには珪藻かクリプト藻を与えるとすごいやる気を出す。


☆餌を食べないとやる気出ないはずなのに、餌を食べようとしないうずべん

ふざけんなって感じだが、実際に自然環境でどんな餌を食って生きてるか分からないのでどうしようもない。片っ端から餌になりそうなのを与えてダメならダメである。まあ、増えないのは餌のせいだけではないかもしれないが。
残念なことに、葉緑体を持たないうずべんの大半がこれ。
ちなみに、餌を食べたのにやる気を出すことなく死んで行った正体不明のうずべんが昔いた。一体何がお気に召さなかったのだろうか。




ということで、うずべんはそう簡単にやる気を出してくれる生き物ではない。
やる気のないうずべんは研究が(不可能ではないが)難しく、分類もまともにできていなかったりする。逆に言えば、未記載種がゴロゴロ眠っている。

あと、うずべんのやる気そのものも研究対象になりうる。韓国のHae Jin Jeong教授のグループでは、うずべんがどういった条件下で最もやる気を出すのか、どんな餌を好むのか、といった研究をされている(https://scholar.google.com/citations?user=MTBuX5AAAAAJ&hl=en)。




現状、やる気を出さないうずべんにとっては「何か」が足りていない。自然界にあって実験室内の培養条件下にはないもの…いくらでも挙げられそうだが、その中でやる気を出すキーになるもの。やる気スイッチ。
これも種によって違うんだろうが…難しい謎である。