運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

論文紹介シリーズ その2

今回紹介する論文はこちら。

Jang et al. 2019. Gyrodinium jinhaense n. sp., a new heterotrophic unarmored dinoflagellate from the coastal waters of Korea. Journal of Eukaryotic Microbiology 0; 1-15.
URL https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/jeu.12729

韓国から見つかったGyrodinium jinhaenseといううずべんの新種記載論文である。
記載論文がどんなものなのかは過去の記事(https://under-the-floor.hatenablog.com/entry/2019/04/21/214214)に書いてあるのでそちらを参考にして頂きたい。今回の論文も同じ形式で書かれている。




Gyrodinium属のうずべんは葉緑体を持たず、見た目は透明である。また、鎧板も持たない。形は紡錘形のものが多く、細胞表面に縦筋(論文中ではLongitudinal Surface Striation; LSSと呼んでいる)が複数本並んでいる。
Gyrodinium属に含まれる種の数は一時期100種を越えていたらしいが、その多くが誤同定だったり系統的に問題があったりで支持されていないとのことである。
また、Gyrodinium属の新種記載は2012年以来のことになるそうだ。

ということでGyrodinium jinhaenseの特徴を見ていく。

まずは光学顕微鏡の画像。本種も基本的に透明で、紡錘形で、縦筋が見られる。
面白いのはFigure 1Fの緑藻を体内に取り込んだ様子である。
Gyrodinium属のうずべんは筆者も何度か単離したことがあるが、その時与えた珪藻やクリプト藻、小型のうずべんは食べてくれず、当然増えてもくれなかった。ところがこの論文だと緑藻を食べる様子が観察され、さらにあろう事かこのうずべんを増やすことに成功し、株として成立させてしまったと書いてある。
今度Gyrodinium見つけたら緑藻あげてみようと思う。いや、その前に餌になりそうな緑藻の確保か…。

次にSEM。光学顕微鏡でも見えていた縦筋がはっきりと観察でき、本数もわかる。また、細胞のてっぺんに特徴的な構造(Apical Structure Complex; ASC)が見られる。

そしてTEMだが、こちらは特にすごく目立つ構造は無さそうだ。鞭毛装置の立体構造も記載されていない。
というかこのTEM画像さすがに汚くないか?大丈夫か?

最後に分子系統解析。これによると、このうずべんの遺伝子は他のどのうずべんとも一致せず、Gyrodinium属の他のうずべんと共に単系統を作るようだ。

これらを踏まえてこのうずべんを本当に新種としていいのか検証していく。
Gyrodinium属に含まれるのは間違いなさそうなので、この属の他の種と比較して全く同じものがいないかの確認が本題になる。
比較結果がTable 3にまとめられている。比較された形質が17個も羅列されているが、大雑把にまとめると細胞の形や大きさ、縦筋(LSS)の数、細胞のてっぺんのあれ(ASC)の形、核の位置、となる。
これを見る限り、今回のうずべんは既に知られているGyrodinium属のうずべんのいずれとも区別が可能であるようだ。




ということで、今回のうずべんは晴れてGyrodinium jinhaenseという新種として登録されることになった。




個人的には緑藻を食ってる写真を見てファッてなって読み始めたのだが、その辺の考察はしてくれなかった。案外これが普通なのだろうか。
まあこのうずべんを使ってまた別の実験をやった論文が出るかもしれないし、出たらまた読もうと思う。