運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

盗んだ葉緑体で光合成し出す

この前のサンプリングでとってきたサンプルの一部からNusuttodinium属という盗葉緑体性のうずべんが大量発生したので、せっかくなので盗葉緑体についてまとめようと思う。




葉緑体とは、元々葉緑体を持っていない生物が、他の生物から葉緑体を奪い、自分のもののように光合成させて栄養を獲得することである。
うずべんに限らず様々な生物に盗葉緑体種が見られる。すでにこのブログでも、繊毛虫の例(https://under-the-floor.hatenablog.com/entry/2019/06/24/221459)やウミウシの例(https://under-the-floor.hatenablog.com/entry/2019/06/10/211808)を紹介した。

また、うずべんの中でも盗葉緑体種は何度も発生してきているようである。
例えばDinophysis属の1種は、先述した盗葉緑体繊毛虫からさらに葉緑体を奪っている。
また、筆者のサンプルから湧いてきたNusuttodinium属は、Dinophysis属とは全く異なる系統のうずべんで、クリプト藻を捕まえて葉緑体を奪う。サンプルの中でもクリプト藻の大虐殺が繰り広げられている。なお、学名にあるNusuttoとはもちろん盗人のことである。

ということで、盗葉緑体は奇妙な現象ではあるものの、やっている生物は少なくないと言える。




ところで、酸素発生型光合成というのは元々シアノバクテリアが開発したものだが、現在幅を利かせている真核光合成性生物はシアノバクテリアの直系の子孫ではない。なんらかの真核生物がシアノバクテリアを細胞内に取り込み、それを葉緑体として自らの体に一体化させ、それが広まった。このプロセスは「細胞内共生説」と呼ばれていて、シアノバクテリアを取り込んで光合成能力を獲得した生物の系統は「一次植物」とされている。
さらに、一次植物を取り込んで光合成能力を獲得した生物が多数存在し、これは「二次植物」と呼ばれている。

具体的には、緑藻(アオサ)や紅藻(ノリ)などは一次植物で、褐藻(ワカメ、コンブ)やうずべんは二次植物である。

さて、この細胞内共生説だが、あくまで「説」であり、証拠から推定されているだけで、この進化のプロセスを直接目の当たりにすることはできない。
…のだが、この細胞内共生という現象にとても近そうな現象は存在するのである。それが盗葉緑体だ。

葉緑体は、盗んだ葉緑体を完全に自分のものにしている訳ではなく、古くなったら使い捨てるし、また新しい葉緑体を盗まないといけない。
従って、この段階の生物は、他の光合成性生物を細胞内共生させようと頑張ってる状態、と推測することができる。従属栄養生物から独立栄養生物への進化の中間段階、とも言える。
ということで、盗葉緑体現象の解明により細胞内共生のメカニズムがわかるのでは?という考えがあり、そういった観点から研究が結構進んでいる。

ちなみに、うずべんは先述のとおり二次植物だが、これが一度葉緑体を捨て、さらにもう一度葉緑体を奪ったりしているわけである。優柔不断か。
さらに、奪い直した葉緑体を完全に自分のものにして、盗む必要がなくなった種も存在する。こうして生まれた光合成性生物は、「三次植物」ということになるだろう。




うずべんでは葉緑体の出たり入ったりがかなり頻繁である(と筆者は思っている)。葉緑体を進化を考えるのに、うずべんは色々と面白い研究材料になってくれる。