運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

SEMについて

うずべんのような単細胞生物の観察に電子顕微鏡は欠かせない。

電子顕微鏡とは、可視光の代わりに波長の短い電子線を使うことで解像度を向上させた顕微鏡である。
走査型電子顕微鏡(SEM)と透過型電子顕微鏡(TEM)の2種類が存在する。

今回はこのうちSEMの方についてまとめてみようと思う。




電子顕微鏡では、物体を真空条件下に置いて観察する。電子線が空気に邪魔されないようにするためである。
SEMの場合、物体を元の形のまま観察する。当然うずべんをそのまま真空にぶち込めば爆発して死ぬので、それなりの処理をする必要がある。

まず、うずべんを薬品で固定、つまり綺麗に固まった状態でうまいこと殺す。薬品はグルタールアルデヒド、四酸化オスミウム、ルゴール液などが使われる。
どの薬品をどの濃度で使い、どれくらいの時間固定するかなどは、うずべんの種類によって異なる。未記載種のうずべんを扱う場合、これの正解が分からずに下手すると沼にハマる。

この後薬品を洗い流し、エタノール漬けにする。水分が全く残らないように100%エタノールに浸す。

さて、このエタノール漬けにされたうずべんを、臨界点乾燥機という装置で乾燥させる。
これの原理が難しいのだが、まずエタノール漬けにしたうずべんを液体の二酸化炭素に沈める。これをある数値以上の高温高圧(臨界点)にすると、二酸化炭素が液体と気体の中間みたいな状態(臨界状態)になり、表面張力の影響を消した上でエタノール二酸化炭素ごと飛ばすことができる。
何を言ってるのかわからんかもしれないが、筆者も正直よくわかっていない。
とにかく、これをせずにエタノールを飛ばそうとすると、表面張力の影響で細胞がべちゃっとなってまともに観察できなくなる。

これで乾燥したうずべんの細胞は、真空に置いても構造が崩れることはなくなる。
ただもうひとつ問題があり、電子線を当てるという都合上、これで細胞が帯電しないようにしなければならない。
ということで、イオンスパッターという装置を使って細胞表面に極めて薄い金(もしくは白金)の膜を張り、帯電を防止する。

ここまでやってようやくSEM観察である。
細胞固定からイオンスパッターまで最低でも1日かかるので、正直結構疲れる。この後SEMで観察して結果がわかる訳だが、まあだいたい上手くいかないので精神的にも疲れる。
ただ、本当に上手くいって綺麗な細胞が画面に映った時は感動すら覚える。




以上がざっくりとしたSEMの説明である。
明日はTEMについてまとめてみようと思う。