運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

ネーミングセンス

新種の記載論文を書いた著者には、その生物の命名権が与えられる。
分類学をやっていれば、最終的に何かの生物の名付け親になる。ここで付けた名前は全世界に公開され未来永劫残る(後で名前を変えられても記録として残る)上に、そもそも記載論文では名前の由来まで説明しなければならないので、変な名前をつける訳にはいかない。ネーミングセンスが問われる。




よく聞かれるのは、新種って自分の名前付けていいの?という疑問である。
確か手続き上問題はなかったはずだが、実際にこんなことをやってしまえばどれだけ自己顕示欲が強いんだってなるし、やべーやつばかりの研究業界の中でも最強にやべーやつ認定されるのは間違いない。周りに良識的な人がいれば、やろうとしても多分止めに来るだろう。

学名に人の名前を使う場合、ほぼ確実に「献名」という形になる。これは、研究に多大な貢献をした偉い先生、命名者がものすごくお世話になった偉い先生、とにかく偉い先生の名前を、記念の意味も込めて学名にあてるものである。自分の名前を学名に残そうとしたら、まず偉い先生になって、自分の名前を付けてくれそうな人に恩を売らないといけない。

学名に献名がなされるケースはあまり多くなく、大抵の学名はその生物の特徴を表したものになる。
例えば、筆者が以前記載したParagymnodinium stigmaticum [1]は、眼点(eyespot, stigma)を持つのでこの名前にした。
stigmaというと何となく「汚れ」みたいなニュアンスがありそうで最初はどうなのかなと思っていたが、知り合いから「厨二っぽくてかっこいいね!」と言われたので今は気に入っている。ちなみに筆者は厨二病なので「厨二っぽい」は褒め言葉である。

あとは、その生物が発見された場所(タイプ産地)の地名を名前に使うこともある。
例えば、さっきのP. stigmaticumの近縁種であるP. shiwhaense [2]は、Shiwhaという場所から見つかったのでこの名前になっている。

なお、P. shiwhaenseを記載した韓国の研究チームは、新種のうずべんに片っ端から地名を学名として付けているようである。
例えば、同じ研究チームは他にもGyrodiniellum shiwhaense [3]といううずべんを記載している。
P. shiwhaenseと被ってるじゃないかと思われるかもしれないが、属名が違うのでセーフである。ただし、万が一Paragymnodinium属とGyrodiniellum属が統合されてしまったりしたら大変困る(しかもこの2属、系統的にわりと近いのでややこしい)。

ちなみに、G. shiwhaenseは記載時にGyrodiniellum属も新設したのだが、他にGyrodinium属というのが既に存在しており、とてもややこしい。




個人的には、学名はこうあるべき!みたいなこだわりは特になく、規則に従っていて見分けがつきさえすればいいかなあというスタンスである。いや、べつにGyrodiniellum shiwhaenseをディスっている訳ではない。普通に見分けがつくので全く問題ない。




参考
[1]Yokouchi et al. 2018. Ultrastructure and phylogeny of a new species of mixotrophic dinoflagellate, Paragymnodinium stigmaticum sp. nov. (Gymnodiniales, Dinophyceae). Phycologia 57; 539-554.
[2]Kang et al. 2010. Description of a New Planktonic Mixotrophic Dinoflagellate Paragymnodinium shiwhaense n. gen., n. sp. from the Coastal Waters off Western Korea: Morphology, Pigments, and Ribosomal DNA Gene Sequence. J. Eukaryot. Microbiol. 57; 121–144.
[3]Kang et al. 2011. Gyrodiniellum shiwhaense n. gen., n. sp., a New Planktonic Heterotrophic Dinoflagellate from the Coastal Waters of Western Korea: Morphology and Ribosomal DNA Gene Sequence. J. Eukaryot. Microbiol. 58; 284–309.