運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

PCR

PCRとは、Polymerase Chain Reaction (ポリメラーゼ連鎖反応)の略である。
簡単に言うと、適切な試薬を混ぜて温度を上げ下げするだけで、DNAの狙った配列を指数関数的に増やすことのできる技術だ。

現代生物学の発展に最も貢献した発明は何かと問われれば、真っ先に挙げられるのがPCRだろう。
DNAの配列、すなわち遺伝情報からは、莫大な量のデータを得ることができる。PCRが広まった1990年代以降、遺伝子解析の速度が急激に増し、これまで見えなかった事実が次々と見え始めた…らしい。ちなみに筆者はこの時幼稚園児とか小学生とかである。

筆者がやっている系統分類学にも大きな影響があり、遺伝子配列を元にして生物の系統を議論する分子系統学というのがメジャーになった。遺伝子配列は、「データ量が多い」「定量化しやすい」という理由により、系統学にとって非常に好都合であった。結果、これまで形態的特徴だけで考えられてきた生物の系統関係が、分子系統学によって大幅に修正される事態が頻発した。形態なんてものは系統関係を考えるのにあんまりアテにならないという事実が明るみになったとも言える。
現在の系統分類学では、(扱う生物にもよるが)生物の形態と遺伝子情報の両方を元に系統関係を議論するのが一般的である。




ということで、筆者も新しいうずべんを扱う際には、ほぼ必ず遺伝子を解析するためにPCRをする。

冒頭で述べた感じだととても簡単そうな技術に見えるが、慣れないうちは結構失敗する。
試薬が適切に混ぜられていなかったり、温度管理がミスっていたりするとアウトである。
別の生物の遺伝子が混ざって(コンタミネーション、いわゆるコンタミ)、うずべんの遺伝子以外のも一緒に増えた場合ももちろんだめだ。
また、PCR反応のスタート地点を決めるためのプライマーというものがあるのだが、これが目的のDNAにうまくハマらない場合もPCRは失敗する。筆者たちの扱ううずべんは未記載種であるため、このパターンがたまにある。
あとは、普通に原因が分からない場合も多い、というかこれが大半だったりする。知り合い曰く、「どうしてもPCR上手くいかないときは反応中に踊るといいよ」とのことである。

という感じで、現在後輩が苦戦中である。ついでにフィリピン人の同期も苦戦中である。

そして筆者だが、今日昼にTEM観察を大失敗してやることが無くなったので、久しぶりにPCRをすることにした。6月のサンプリングでなぞのうずべんがいくつか採れていたので、これらの遺伝子を読みたかったのだ。

周りの皆さんが苦戦していて不安だったが、筆者は無事成功した。やったぜ。




増やした遺伝子を読むのは、色々あって来週になると思う。楽しみだ。