運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

論文紹介シリーズ その6

前回からだいぶ間が空いたが、最近論文書いたりデータ消えたり論文書いたりしていたからしょうがない。

今回紹介するのはこちら。
Yamada et al. 2019. Discovery of a kleptoplastic ‘dinotom’ dinoflagellate and the unique nuclear dynamics of converting kleptoplastids to permanent plastids. Scientific Report 9: 10474.

うずべんは葉緑体を獲得した祖先から派生した生き物だが、その約半数はせっかく獲得した葉緑体を捨てている。
さらにその後、再度別の藻類から葉緑体をぶんどって自分のものにするケースが複数ある。
この中に、珪藻から葉緑体をぶんどったうずべんの一群が知られていて、dinoflagellate(うずべん)とdiatom(珪藻)をもじってdinotomと呼ばれたりする。
Dinotomには珪藻の葉緑体だけでなく核も残っていて、ひとつのうずべんの中に核が2つあるように見える()。

さてそんなdinotomだが、うずべん本体は単系統群であるにも関わらず中身の珪藻の系統がバラバラであること、うずべん単体での培養が難しい種が多いこと、あるはずの珪藻の核が無くなっている例がいくつか報告されていることなどから、実は珪藻の葉緑体はうずべん側にあんまり定着してないのでは?もっと言うと、実は珪藻の葉緑体は使い捨てで、定期的に新しい葉緑体を補充しないといけない、すなわち盗葉緑体的な扱いなのでは?という推測が立てられていた。盗葉緑体についてはこちら()

ということで、dinotomに珪藻を与えてなんやかんやしたのがこの論文である。
なお、今回扱ったdinotomはDurinskia capensisとD. kwazulunatalensisの2種類である。




まず珪藻なしでdinotomを放置すると、やっぱり葉緑体がしなびて増殖もできなかった。葉緑体遺伝子の発現量も光合成活性も減衰したらしい。
一方、dinotomに珪藻を与えてみると、63日目の観察でも元気にしていた。
また、dinotomが珪藻を捕まえて葉緑体を奪っている様子が実際に観察され、ペダンクルというチューブ状の器官を使って珪藻の中身だけを吸い取っていることが分かった。

これにより、dinotom(ただし検証されたのはD. capensisのみ)が盗葉緑体性であるのが初めて示された。
さらに、葉緑体を獲得するプロセスとしては「細胞内共生説」がもっともらしいと考えられているのだが、このdinotomの葉緑体獲得スタイルを見るに、「細胞内共生」という言葉を当てはめるのは無理があるのでは?と主張している。代わりに‘organelle-retaining diatom-derived tertiary plastids (ODP)'という表現がされている。適切な日本語訳が浮かばないが。




次に、珪藻の核がdinotomの中でどんな動態を示すか観察された。
この結果はdinotomの種によって異なった。まずD. capensisでは、観察初日では珪藻の核がひとつ残っているものの、7日目では核は消えてミトコンドリアDNAしか残っておらず、35日目には珪藻由来のDNAは全て消えてしまった。
一方のD. kwazulunatalensisではもっと複雑で、まず最初の段階で珪藻の核が3〜6個含まれている。これがdinotom本体の分裂に同調して複製されたり、分裂しない時は形を変えて葉緑体の隙間に収められたりしていた。

D. capensisとD. kwazulunatalensisは系統的にとても近縁で、形態もほぼ同じなのだが、D. kwazulunatalensisの方が葉緑体のコントロール能力に長けている、すなわち恒久的な葉緑体の獲得にどちらかと言えば近いことがわかった。




以上がおおまかな内容である。
Dinotomの葉緑体は、葉緑体獲得の(比較的)初期段階にあるという推察の元で注目されているのだが、今回はその推察を支持する内容になっていた。

あと、盗葉緑体性のdinotomが確認されたということは、他の難培養性のdinotomにも珪藻与えれば増えるのでは?みたいな期待をしてしまった。
取り込む珪藻には好みがあるようだし簡単には行かないだろうが、今後の進展が期待できる話だと思う。