運だけ研究生活

渦鞭毛藻、略して「うずべん」を研究しています。研究者の方向けの内容にはならないとおもいます。悪しからず。

論文紹介シリーズ その8

今回の論文はこちら。

Valiadi M. et al. 2019. Molecular and biochemical basis for the loss of bioiluminescence in the dinoflagellate Noctiluca scintillans along the west coast of the U.S.A. Limnol. Oceanogr. doi: 10.1002/lno.11309.




Noctiluca scintillansは夜光虫と呼ばれているうずべんで、なんと光る。しかもめちゃくちゃ群れて光るので、海全体が光っているように見えることもある。
ルシフェリンとルシフェラーゼがscintillonという細胞小器官に入っていて、これらが反応すると光を出す。

夜光虫と呼ばれるうずべんはN. scintillansの1種類だけだが、場所によって光の色が違ったりするらしい。
そして、アメリカ西海岸の某所に生息するN. scintillansは、光らないという。それもう夜光虫じゃないじゃんと言いたくなるが、それでも種としては同じらしい。

ということで、この光らない夜光虫について色々調べたというのがこの論文の内容である。




まず光るやつと光らないやつの違いだが、形はほぼ同じで、光らないやつの方が43%ほど小さい。半分くらいの大きさと考えると結構な差がある。

次にルシフェラーゼ遺伝子(正確にはルシフェラーゼ/ルシフェリン結合タンパク複合遺伝子 lcf/lbp)の配列を調べたところ、光らないやつの配列には大幅な欠損(270塩基対のうち36塩基対以上)が見られた。
また、逆転写PCR(RT-PCR)によって得られた相補的DNAの解析(簡単に言うと、転写されている遺伝子をまとめて解析する手法)の結果、光らないやつからはルシフェラーゼ遺伝子が検出されなった。
つまり、光らないやつのルシフェラーゼ遺伝子は、配列に異常があり、かつ発現が抑制されているということになる。

次にルシフェリンなどが詰まっているという細胞小器官scintillonをTEMで探した結果、なんかそれっぽいものが見つかりはしたが微妙に様子が変らしい。論文中ではこの構造はscintillon-like structureと表現している。素人目にはscintillonもscintillon-like structureも同じような黒い塊にしか見えないのだが。

ルシフェリンとルシフェラーゼの抽出も行われた。結果、光らないやつのルシフェラーゼの活性はめちゃくちゃ弱いもののゼロではないらしく、他由来のルシフェリンと微妙に反応できた。ただ、普通ならルシフェラーゼとともに存在しているはずのルシフェリンが検出されなかった。

最後に、念の為rDNA配列による分子系統解析をやったところ、やっぱり光るやつと光らないやつは系統的にはほぼ区別できなかった。




というわけで、光らない夜光虫では、ルシフェリンやルシフェラーゼが変異していたり発現抑制されていたりすることがわかった。

ただこの光る/光らないことの適応的意義や生態系への影響などについてはまだ調べるべきことが多く残っているらしい。大変気になるところである。